B787が革新的なのはカーボンだけじゃない! B787はリチウムイオン電池を初めて搭載した旅客機です

ボーイング787(B787)はカーボン(炭素繊維複合材)材料を使用して軽量化させて燃費を向上させたことがよく取り上げられていますが、実はそれ以上に挑戦的な試みがなされています。

 

それはリチウムイオン電池を搭載したこと。

それだけ?と思われるかもしれませんが、実はすごいことなんです。

 

リチウムイオン電池ですが、飛行機に乗る時の預け入れの荷物には入れてはいけないことになっています。それはリチウムイン電池が発熱・発火しやすい性質だからです。

 

そんなものを積んでいるのです。

といっても様々な分野で実績があったからこそ飛行機にも搭載されたとも言えます。

 

 

 

ちなみにですが、過去にリチウムイオン電池が原因とされる墜落事故も発生しています。

UPS航空6便墜落事故 (Wikipedia)

この事故では積荷のリチウムイオン電池が原因とみられる火災が発生し、墜落した事故です。

飛行機の火災事故は重大事故につながることが多く、非常に多くの火災対策がされています。

 

 

 

本題に戻りますが、

リチウムイオン電池はエネルギー密度が高い電池、つまり軽いのに一杯充電できる電池なんです。これは電気(電子)のやり取りをするのにリチウムを使っていることで軽量化しています。なぜリチウムを使うと軽くなるかというと、リチウムはH, He, Liと周期表の3番目に出てくる通り、3番目に軽い原子であり、そして最も軽い金属だからです。(簡単に説明するとこのようになるんですが、実際には電解質や電極材料などで性能は大きく変わるので、単純にリチウムが軽いからリチウムイン電池が軽い、というのは少し短絡的すぎる表現だと思いますが。)。リチウム電池(リチウムの原子量=7)が鉛蓄電池(鉛の原子量=207)に比べて、軽いのも納得できます。

 

一方でリチウムイオン電池が厄介なのは、充放電の過程でリチウム単体が析出してしまう場合があることです。

 

リチウム単体は非常に反応性が高く非常に危険です。金属ナトリウムを池に投げ込み水柱が上がる動画をご覧になった方もいらっしゃると思いますが、リチウムでやってもあれと同じようなことがおきます。このため、リチウムイン電池では単体のリチウムが析出しないように電極材料や電解質に工夫が施されています。しかしながら過剰な充電などを行うとリチウムが析出し、発熱・発火に至る場合があります。

 

 

このようなリチウムイオン電池の性質が元で、B787で事故が起きています。

2013年にJALおよびANAのB787で立て続けに出火事故が起こり話題になりました。

ボーイング787のバッテリー問題 (Wikipedia)

JALは駐機中だったのですが、ANAの方は飛んでいる最中に出火し、緊急着陸を強いられました。

 

出火の原因ですが、リチウムイオン電池の充放電のシステムが問題だったようです。

リチウムイン電池ではリチウム析出を避けるために非常に繊細な制御システムが必要です。充電時に電圧をかけすぎないことや過放電、過充電を避けるためのシステムを使って制御していますが、この制御機構が甘かったというのがあるようです。

 

結果として、この事故の後にボーイングはリチウムイン電池の充放電の制御システムの改善という対策を打っています(これ以外の対策もやっています)が、今のところ大きな不具合は発生していないようです。リチウムイオン電池は初めて搭載したのですから、その辺りは最初からしっかりやっておいてほしかったですね。

 

 

 

しかし、飛行機での火災に対するリスクが非常に大きいことは、現在では当たり前になっています。ANA便では飛行中にリチウムイン電池のトラブルで出火したもののキチンと着陸できており、飛行機の安全技術の向上を感じます。重大な事故のたびに、難燃素材・耐火設備など飛行機に対する安全基準が厳しくなっているおかげで今の私たちは安全に飛行機で移動することができるようになったとも言えます。

 

日々、科学技術は進歩と遂げていますが、私たちからは見えないところで変わっているものもあります。私も技術者の一人として、消費者の目からは見えなくとも、社会に貢献できる仕事ができるように頑張ってきたいところです。

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