理系ネタです。
水と油は混ざらないと言われますが、これには少し誤解があります。水と油は溶けない、がおそらく正しい表現です。なぜなら、牛乳やマヨネーズは水と油が混ざったものだからです。
ドレッシングは水と油が分かれていますし、しっかりと振ってサラダにかけて使ったとしても、容器をそのまま置いておくと自然と分離してきます。でも牛乳やマヨネーズではそれが起こらない、なぜでしょうか。
この秘密は 乳化、界面活性剤、エマルジョン というキーワードで説明することができます。
単に水と油を混ぜると自然と分離しますが、水と油の仲介役である界面活性剤(乳化剤ともいう)と呼ばれるものを入れて上手に混ぜてやると分離しなくなります。このような操作を乳化と言います。
界面活性剤は水にも油にも溶ける構造を持つ化合物です。洗剤も界面活性剤が主成分であり、水にも油にも溶ける性質を利用して油汚れを落としています。
本来、水と油が混ざった状態は不安定な状態であり、各々集まろうとするのですが、界面活性剤が存在することで水と油が混ざった状態が安定になります。界面活性剤の油に溶ける構造の近くに油が、水に溶ける構造の近くに水が集まるため、界面活性剤を挟んで安定な状態を形成できます。牛乳を例にすると、水の中に細かい油の粒子が浮いたような状態になり、絵で書くとこんな感じになります。
(油の粒子は体積に対して表面積を一番小さくしようとするため、球状になります。)

このような構造をエマルジョン(エマルション)と言います。
これは溶けている状態と何が違うのか、と言われるといろいろと違います。
まず第一にエマルジョンは最も安定な状態ではないということです。いずれ乳化された状態がなくなり、水と油に分離してしまうのです。マヨネーズも熱をかけると水と油に分離してくることは有名で、ポテトサラダを作るときはポテトを冷やしてからマヨネーズを入れるのはマヨネーズが分離して美味しくなくなるからです。あと、マヨネーズを冷凍しても水と油に分離します。エマルジョンは温度管理が重要です。
では、安定な状態じゃないのに何で牛乳やマヨネーズはなかなか分離してこないのか、という疑問もありますが、これは速度が遅いというだけです。実際に世の中には一番安定な構造じゃないけど、普通に存在しているものがいっぱいあります。
例えば、ダイヤモンドと黒鉛の関係がこれに当たります。
黒鉛とダイヤモンドはどちらも炭素のみからなるものなのですが、実は黒鉛の方が安定な構造なのです。しかしながら、ダイヤモンドが黒鉛になったところを見たことがありません。これは難しい言葉で言うと速度論的に非常に安定であるという説明ができます。簡単に言えば、ダイヤモンドが黒鉛になるスピードはとてつもなく遅いので、ダイヤモンドが黒鉛になることはない、ということです。
次に溶けている状態と違う点として見た目が違います。
砂糖水は透明ですが、牛乳は白色です。これはエマルジョンと光の性質によるもので、チンダル現象と呼ばれています。ある程度の大きさの粒子になると光が散乱という現象を起こすようになります。この性質で光が透過せず反射している状態になるため、白く見えるわけです。砂糖を水に溶かしたものはショ糖という分子が分子一つ一つが水の中に分散している状態で、粒子状のものが水の中に存在していないため光の散乱が起こらず、透明に見えるのです。
水(または油)に溶けないものをうまく混ぜこむ技術は非常に重要で様々な分野で活用されてます。上で紹介したマヨネーズ以外にもハンドクリームやシャンプー、洗顔料といったものもエマルジョンで、実は日常生活で使っているものは乳化という技術がいろんなところで使われているのです。普段使っているものも、使われている技術はどんなものなのだろうか、と見方を変えると少し面白く見えてくるかもしれません。
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