水の電気分解は実はすごい反応! 電気の力で結合を効率的に切断!

水の電気分解反応は中学校で習う分解反応のひとつです。化学式で書くと以下の通り。

2H2O → 2H2 + O2

化学式で書くととても簡単ですが、意外にもこの反応が凄いんです。何が凄いかというと、この反応を熱エネルギーだけで(加熱するだけで)行おうと思うと理論的には2,000度以上必要になるからなんです。つまり、H2OのO-Hの結合は非常に強い結合で普通の方法で分解させるのは難しいのです。

電気分解は酸化還元反応のひとつ

水の電気分解は酸化還元反応が陰極と陽極で起こっています。ただし、電気分解を行うときには水酸化ナトリウムや硫酸などの電解質を溶かすことが重要です。純水では電気が通らないからです。

水酸化ナトリウムを溶かした場合は以下の式になります。(アルカリ性のものを溶かした場合は水中のOHの濃度が高くなり、H+の濃度が減少するため。)

陽極 4OH → 2H2O + O2 +4e-

陰極 2H2O + 2e- → H2 + 2OH

電子のやり取りを利用することでO-Hの結合を断ち切っています。しかし、この式も実は誤魔化している部分があります。例えば、陽極の反応では4OHが二つの水分子と一つの酸素分子と四つの電子になっているわけですが、OHが4つ集まってきて急にこんな反応が起きるのはありえません。そもそもマイナスの電荷同士で反発するため、反応の機会がないはずです。

半反応式には出てこない反応がある

ではこの反応はどうなっているかと、電極と反応が間に入ることによって反応が進んでいます。

M → M+ + e-                             ①

M+ + OH → M-OH                        ②

4M-OH → 4M + 2H2O + O2           ③

陽極側の電極は電気をかけられており、電子が陰極側の電極に移っているため、実際にはM+という状態になっています。これが①の式に相当します。

このM+とOHが電極上で結合します。(②の式)

そして4つのM-OHの結合から水と酸素が発生します。(③の式)

この三つの式を経由して陽極側の反応が進行すれば、OHがいきなり電子を放出するようなことにはなりません。また、この三つの式を足しあわせれば、最初に示した陽極の半反応式になります。

③+②×4+①×4で

4M + 4M+ + 4OH + 4M-OH4M+ + 4e- + 4M-OH + 4M + 2H2O + O2

となり、電極にかかわる部分はうまいこと消えます。

 

陰極側でも同じように電極での反応を書くことができます。

M +e-→ M–                                                 

M + H2O → M-H + OH              ⑤

2M-H→ 2M + H2                             ⑥

陰極側では陽極から受け取った電子でMはMとなります(④の式)。

Mは水分子から水素を引き抜けばM-Hの結合が形成され、OHが発生します(⑤の式)。

M-Hの結合から水素が発生します(⑥の式)。

こちらもこの三つの式を足しあわせれば、最初に示した陰極の半反応式になります。

⑥+⑤×2+④×2で

2M-H + 2M + 2H2O + 2M + 2e- → 2M + H2 + 2M-H + 2OH + 2M

となり、こちらも同様に電極にかかわる部分は消えます。

水の電気分解で習う半反応式は形式上間違ってはいないのですが、電極上での反応式が半反応式から抜けているため、パッと見てありえない反応が進行しているように見えるのです。そして電極での反応を足してやると水のO-Hの結合をイオン的(電気的)に上手に断ち切っていることが分かります。この反応を加熱するだけのエネルギーでやろうと思うと2000℃以上必要と思うと、常温でこの反応が進行するのがいかに凄いか、ということが分かると思います。

 

水の電気分解で水素を製造?

水の電気分解で発生する水素と言えば、MIRAIなどの燃料電池車が出てきており、水素はクリーンなエネルギー源として注目されています。水の電気分解のイメージが強いためか、水を電気分解して水素を製造していると思われている方もいるかもしれませんが、これは間違い。水素は石油・石炭を原料として製造しているので、水素を利用したからと言って脱化石燃料になるわけではありません。

電気エネルギーは貯蔵するのが非常に難しいため、化学エネルギーに変換して貯蔵する方法がありますが、その返還方法として水の電気分解を利用する方法もあります。しかしながら、水の電気分解は反応速度が遅いという難点があるので、おそらく水素ではなく別の反応で電気エネルギーを貯蔵する方法になると思います。

水素を化石燃料から作っているのであれば、クリーンなエネルギーではないと思われるかもしれませんが、あまり使われていない原料を効率的に利用できる点や、反応後に得られるものが水だけであり、化石燃料を燃焼させた場合に発生するCO2が出ない、という点で優れています。

 

さいごに

中学校で習う水の電気分解ですが、意外にも奥の深い反応です。水にかかわる物は不思議な現象なものも多く、例えば水を氷にすると膨張するのも実は非常に特殊な現象だったりします。科学に関することは深く学んだつもりでも、原理について調べてみると驚くようなことがあるので、日々是勉強なのだということを痛感させられます。

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